GPS装着義務化はストーカー被害を防げるのか?

探偵が考える制度の可能性と課題
2026年10月、警察庁はストーカー加害者へのGPS装着義務化などを検討する有識者会議を開催しました。この会議は、加害者の位置情報を独自システムで把握し、被害者への接近を知らせることで、重大な事件を未然に防ぐことを目指すものです。
しかし、GPSを装着するだけで、ストーカー被害を防ぐことはできるのでしょうか。
GPSは位置情報を把握するうえで便利な技術ですが、測位の誤差や通信環境・バッテリーなど、実際の運用には様々な課題があります。
今回のコラムでは、ストーカー加害者へのGPS装着義務化に関するニュースを整理しながら、日頃からGPS機器を扱う探偵の視点で、制度の可能性と課題について考えていきます。
ストーカー加害者へのGPS装着義務化とは?
2026年10月、警察庁が新たなストーカー対策の検討を開始
2026年10月19日、警察庁は「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会」の初会合を開き、ストーカー加害者へのGPS装着など、新たな被害者保護制度の検討を開始しました。
≫警察庁|第1回有識者検討会 資料3
今回の会議では、危険性の高い加害者にGPS機器を装着させる仕組みのほか、治療やカウンセリングの受診を義務付ける制度についても議論されています。
ただし、2026年10月現在、GPSの装着義務化が法律で決定されたわけではありません。装着を命じる対象者や手続き、使用する機器、監視体制などは、今後の議論で検討していく段階です。
GPSの装着で何が変わる?想定される仕組み
検討されているのは、GPSによって加害者の位置情報を把握し、被害者に一定の距離まで接近した場合に、その危険を知らせる仕組みです。
例えば、加害者が被害者の自宅や勤務先の近くに現れたことを事前に察知できれば、被害者が避難したり、警察に助けを求めたりする時間を確保できる可能性があります。
韓国やスペインなどでは、ストーカー加害者の足首にGPS付きの電子足輪を装着させる制度が既に運用されており、日本でもこうした海外の制度を参考にしていますが、電子足輪を含め具体的な装着方法や通知の仕組みはまだ決まっていません。
≫FNNプライムオンライン|2026年10月19日
なぜ今、ストーカー対策の強化が必要なのか?
増加するストーカー相談と禁止命令
警察庁の発表によると、2025年のストーカー事案に関する相談等件数は22,881件で、前年から3,314件(16.9%)増加しました。
また、ストーカー行為をやめるよう命じる「禁止命令等」の発出件数は3,037件に達し、過去最多を記録しています。
禁止命令は、加害者の行動を制限して、被害の拡大を防ぐための重要な措置です。しかし、命令が出されたからといって、全ての加害者がストーカー行為をやめるとは限りません。
警察庁が公表した資料では、2022年7月から2025年6月までの3年間に禁止命令等を受けた6,548人のうち、497人(約7.6%)が命令期間中に同じ被害者への違反行為を再び行っていました。
大多数の加害者には、禁止命令による抑止効果が見られる一方、一部では命令だけで再発を防ぎきれていない現状があります。
禁止命令を受けていても発生した重大事件
2026年3月には、東京都豊島区・池袋の商業施設で、ストーカー被害に遭っていた女性が元交際相手の男性に殺害される事件が発生しました。
男性は事件以前にストーカー規制法違反などで処罰され、禁止命令も受けていましたが、被害を防ぐことはできませんでした。
このような事件を背景に、従来の警告や禁止命令に加えて、加害者の接近を早期に把握する新たな対策が求められています。
GPSの装着で期待されるストーカー被害の防止効果
加害者の接近を早期に察知できる
現在も警察では、ストーカー被害者に対して、ワンタッチで110番通報できる緊急通報装置の貸出しなどを行っています。
しかし、この仕組みには、被害者自身が加害者の接近や危険に気づかなければ利用できないという課題があります。
そうした中、今回議論されている新制度体制が整えば、加害者の接近を自動的に検知することができ、被害者が相手の存在に気づく前に警告を出すことが可能です。特に、待ち伏せや突然の接近といった危険を事前に把握できることは、被害者の安全確保において大きな意味を持つでしょう。
海外ではGPSによる電子監視を導入
韓国では、裁判所の命令により、一定のストーカー加害者にGPS付きの電子足輪を装着させる制度が運用されています。
また、ドイツの一部地域などでも、裁判所の命令に基づき、GPS機器を利用して加害者の接近を監視する仕組みが導入されています。
これらの制度は日本にとって参考になる一方、GPSによる監視だけで被害を完全に防げるわけではありません。実際に運用する上では、技術面だけでなく、被害者への通知方法や警察の対応体制についても検討する必要があります。
GPSを装着すれば安心?探偵が考える技術的・運用上の課題
GPSの装着により、再被害を未然に防げる可能性がある一方、私たち探偵が日頃からGPS機器を扱う立場として注目したいのは、位置情報技術そのものの限界です。
GPSには測位誤差や通信の遅延がある
GPSは便利な技術ですが、表示される位置情報が常に正確とは限りません。物の密集した場所や屋内など、衛星からの電波を受信しにくい環境では、実際の位置と表示位置にズレが生じることがあります。
≫国土地理院|GNSSを使用した測量のいろいろ
また、位置情報の取得間隔や通信状況によっては、現在地がすぐに更新されない場合もあり、再度のストーカー加害防止のためにも遅延への対策は大変重要です。
位置情報を反映するマップ上で、加害者がまだ離れた場所にいるように見えていても、実際には既に移動している。
通信が途切れ、再確認してみたらすぐ近くにまで来ている。
そうした問題点が浮上する可能性は大いにあり、ストーカー被害の防止を目的とする場合、こうしたわずかな誤差や時間差が、安全確保に大きく影響することも考えられます。
GPSの取り外しやバッテリー切れへの対策も必要
また、GPS機器を使い続けるためには、電源と通信環境の確保が欠かせません。
探偵が使用するGPS機器でも、位置情報を頻繁に取得・送信する設定では、バッテリーの消耗が早くなる場合があります。加害者に装着するGPS機器についても、故意による取り外しや破損・電池切れなどによって位置情報が取得できなくなる事態を想定しなければなりません。
そのため、GPSを装着させることだけでなく、装置の異常を検知する仕組みや、監視が途絶えた場合の対応まで含めた制度設計が必要になるでしょう。
頻繁な接近通知が被害者の負担になる可能性も
GPSによる監視制度について、特に考えさせられる海外の事例があります。
2026年6月、韓国ではGPS付きの電子足輪を装着していたストーカー加害者の接近警報が、被害者の端末で1日に60〜100回も鳴っていた事例が報道されました。
≫AFPBB News|2026年6月25日
報道によると、配達業に従事する加害者の移動経路が被害者の自宅や勤務先の周辺と重なり、警報が繰り返し発生していたとされています。警察は業務上の移動経路が重なったためと判断していましたが、被害者は精神的に追い詰められ、仕事を辞めて別の地域へ移住することになりました。
この事例では、GPSの測位ミスによる誤報ではなく、接近を検知する警報が頻繁に発生していた点が重要です。
本来、被害者を守るための通知であっても、それが繰り返されることで、かえって恐怖や精神的な負担を増やしてしまう可能性があります。しかし、通知の頻度を減らしすぎれば、本当に危険な接近を見逃すおそれもあります。
被害者にとって適切な通知方法をどう設計するかは、非常に難しい課題と言えるでしょう。
接近を検知できても、犯行を止められるとは限らない
もう一つ忘れてはならないのは、GPSはあくまで位置を把握するための技術だということです。
加害者の接近を検知して警報を発することはできても、加害者の行動そのものを物理的に止めることはできません。警報を受けてから被害者が避難するまでの時間や、警察が現場に駆けつけるまでの対応も重要になります。
つまり、「加害者の居場所がわかること」と「被害者の安全を確保できること」は、必ずしも同じではないのです。
GPS装着の義務化に残された課題と今後の議論
被害者保護と加害者の権利をどう両立させるか
GPSの装着義務化は、技術的な課題だけでなく、法律上の問題も抱えています。
加害者の位置情報を継続的に監視することは、人権(プライバシー)や行動の自由を制限する措置でもあります。
そのため、どのような加害者を対象とするのか、誰が装着を命じるのか、どのくらいの期間監視するのかなど、慎重な判断が必要です。
さらに、被害者との距離を把握する仕組みでは、被害者自身の位置情報を取得・利用する場合も考えられます。被害者の安全を守るための制度が、新たなプライバシー上の不安を生まないようにすることも重要です。
GPSによる監視だけでなく、加害者への働きかけも重要
今回の有識者検討会では、GPS装着の他に、加害者への治療やカウンセリングの受診義務化も検討されています。
警察庁によると、2025年に禁止命令等を受けた人は3,037人でしたが、警察の働きかけによって同年中に治療・カウンセリングにつながった人は147人でした。GPSによる位置情報の監視は、加害者の接近を把握する手段にはなりますが、ストーカー行為を繰り返す原因そのものを解消するものではありません。
被害者を守るためには、接近を防ぐ対策と、加害行為の再発を防ぐための取り組みを組み合わせることが大切だと考えます。
まとめ:GPSは被害防止の新たな手段になり得るが、万能ではない
ストーカー加害者へのGPS装着義務化は、これまで把握することが難しかった加害者の接近を早期に検知し、被害者が危険を回避するための時間を確保できる可能性があります。
その一方で、GPSには測位誤差や通信環境・バッテリーなどの技術的な制約があり、接近通知による精神的負担や、警報後の対応体制など、解決すべき課題も少なくありません。
日頃から位置情報機器を扱う探偵の立場からも、GPSは有効な技術である一方、使い方や運用体制によって、その効果が大きく変わるものだと考えています。大切なのは、GPSの装着そのものを目的とするのではなく、被害者が安心して日常生活を送れる環境をどのように実現するかという視点です。
今後、制度がどのような形で具体化されていくのか、探偵事務所としても注目していきたいと思います。
なお、現在ストーカー被害に不安を感じている方は、新たな制度の実現を待たず、早めに警察などの相談窓口を利用してください。差し迫った危険がある場合は110番、緊急性のない相談は警察相談専用電話「#9110」を利用できます。
≫警察庁|犯罪被害者等施策・ストーカー
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